
WEB運用の内製化と外注|どこまで自社でやるかの判断軸
「これくらい、自分でやったほうが早いのでは」
トップページのお知らせを1行直すだけ。制作会社にメールして、見積もりが返ってくるのを待って、修正されるのは来週。そう考えると、CMSの管理画面を自分で開いたほうが5分で終わる気がしてきます。
その一方で、先月はテンプレートを触ってレイアウトを崩し、復旧に半日かかった。あのときは「やっぱり頼めばよかった」と思った。——「自分でやるべき」と「任せるべき」が、日によって入れ替わる。これは、ひとりでWEBを回している担当者なら、ほとんどの人が抱えている迷いです。
結論:内製化か外注かは、会社まるごとで決める話ではなく、作業ひとつずつに線を引く話です。判断はこの4つで足ります。
①頻度(週に何度も来るか、年に一度か)/②戻しやすさ(失敗しても元に戻せるか)/③専門性(コードやサーバーの知識が要るか)/④自社にしか出せない情報か。
この4つで並べると、多くの作業は自然と「自社でやる」「一緒にやる」「外注する」の3つに分かれます。今日は、直近3か月の更新依頼を紙に書き出して分類するところまでで十分です。
何が起きているのか
まず、言葉を整理させてください。ここでいう内製化とは、これまで外部に頼んでいた作業を自社の中でやるようにすること。外注は、その逆に社外の会社や個人に任せることです。
この話がこじれやすいのは、たいてい「全部か、ゼロか」で議論されるからです。
社内では、こんな言葉が飛び交います。「毎月保守費を払っているのに、何をしてもらってるの」「内製化すればコストが浮くよね」。一方で担当者の側には、「自分が抱え込んだら、休めなくなる」という不安があります。どちらの言い分にも、根拠があります。
けれど実際の現場では、WEB運用は「ひとつの仕事」ではありません。
- お知らせを1本追加する
- 商品ページの価格を直す
- 写真を差し替える
- WordPressのプラグインを更新する
- 問い合わせフォームの項目を増やす
- スマホで表示が崩れたのを直す
- サーバーを引っ越す
- 新しいページをデザインから作る
これらは、必要な知識も、失敗したときの傷の深さも、まったく違います。それを「WEB運用」という一語でまとめて、内製か外注かを決めようとするから、話が噛み合わなくなるのです。
もうひとつ、見落とされやすいことがあります。内製化は「無料」ではないということです。
外注費は請求書という形で目に見えます。でも、自分でやった時間は、どこにも計上されません。だから社内では「浮いた」ように見える。実際には、担当者の残業や、他の仕事の後回しという形で、静かに支払われています。この見えないコストの話は、WEB施策の費用対効果を社内に説明するでも触れているとおりで、数字にしないと社内に伝わりません。
逆に、外注のままにも見えないコストがあります。1行直すのに一週間かかるなら、その一週間、古い情報がサイトに出続けます。臨時休業のお知らせが翌週に出ても意味がありません(臨時休業・緊急のお知らせをすぐ出す備え)。待ち時間は、機会損失という形のコストです。
だから、答えは「どちらか」ではなく、「どこで線を引くか」になります。
手順を小さく分ける

- 直近3か月の「やったこと」を書き出す
- まず、判断材料を用意します。この3か月に発生した更新・修正・トラブル対応を、思い出せるだけ書き出してください。メールの送信済みフォルダと、制作会社とのやり取りを遡ると早いです。
- 1件につき、「内容/誰がやったか/かかった日数/かかった費用」の4つだけメモします。費用は保守契約に含まれていれば「保守内」と書けば十分です。
- 15〜20件も並べば、傾向は見えます。多くの会社で、件数の7割前後は「文字と画像の差し替え」に集中します。
- 4つの軸で、1件ずつ点をつける
- ①頻度:月に1回以上来るか。来るなら内製寄りです。年に一度の作業を自分で覚えても、来年には忘れています。
- ②戻しやすさ:失敗したとき、元に戻せるか。テキストの打ち間違いは戻せます。サーバーの設定変更やデータベースの操作は、戻すのに知識が要ります。
- ③専門性:HTML/CSS/PHP、DNS、サーバー設定など、間違えると全体が止まる領域に触るか。触るなら外注寄りです。
- ④自社にしか出せない情報か:現場の写真、製品の仕様、担当者の言葉。これは外に出しても、結局こちらが原稿を書くことになります。だったら最初から自社で入れたほうが速い。
- 3つの箱に振り分ける
- 自社でやる:頻度が高く、戻しやすく、専門性が低く、自社の情報が必要なもの。→ お知らせ・新着の追加、テキスト修正、写真の差し替え、営業時間の変更、採用情報の更新、GA4のレポート確認、SNS運用。
- 外注する:頻度が低く、戻しにくく、専門性が高いもの。→ サーバー移転、テンプレート(テーマ)の改修、デザイン制作、大きなページの新規制作、不具合の原因調査、セキュリティの事故対応。
- 一緒にやる:どちらとも言い切れないもの。→ WordPressのコア・プラグイン更新、フォームの項目変更、新しいページの追加、SEOを意識した記事制作。「自社が下書き、外注が仕上げ」「自社が実施、外注が事前バックアップと待機」のように、工程で分けます。
- 迷ったら「一緒にやる」に置いて構いません。ここに置いたものは、経験を積むうちに少しずつ左(自社)へ動いていきます。
- 数字にして、社内に示す
- 感覚ではなく、ざっくりした数字を出します。自社でやる場合の時間コストは、時給換算で見ます。
- 例:年収480万円の担当者なら、社会保険料などの会社負担をおおまかに1.3倍とみて年間624万円。年間労働時間を2,000時間とすると、1時間あたり約3,120円。(この数字は例です。自社の実際の給与水準と労働時間に置き換えてください。)
- この単価を使って、「自社でやると年◯時間=約◯円」「外注すると年◯件×◯円」を並べます。予算の組み立て方は来年のWEB予算を立てる、外注費の相場感は制作費の見積書のどこを見るかが参考になります。
- 決めた線を、文書にして共有する
- 頭の中の線引きは、担当が変われば消えます。「誰が・何を・どこまで」の役割分担表を1枚作り、制作会社にも渡します。保守契約の範囲と食い違っていないかも、あわせて確認しておきましょう(保守契約の確認ポイント)。
- 社内向けには、更新依頼の受付ルールとセットにすると回ります(更新依頼をさばく受付ルールの作り方)。「これは自社対応なので3営業日」「これは外注なので2週間」と最初に示せると、催促の電話が減ります。
- 自社でやると決めたものは、手順書にする
- ここを飛ばすと、内製化は属人化(その人しか分からない状態)に変わります。自分が休んだ日に誰も更新できないサイトは、内製化できたとは言えません。
- 画面のスクリーンショットを貼って、10行の手順書で十分です(サイト運用マニュアルの作り方、引き継ぎ資料の整え方)。
- 半年に一度、線を引き直す
- スキルが上がれば線は右から左へ動きますし、繁忙期や異動があれば左から右へ戻すこともあります。戻していい、というのが大事なところです。一度内製化したものを外注に戻すのは、失敗ではありません。
- 見直しのタイミングは、サイト運用の年間スケジュールに「線引きの見直し」として書き込んでおくと忘れません。
具体例
従業員80名ほどのメーカーで、総務と兼務でWEBを担当している方の例です。
サイトはリニューアルから2年。保守契約は月3万円で、「軽微な修正は月2件まで込み」という内容でした。ところが実際の依頼は、月に8〜10件。超過分は1件5,000円ほどかかり、しかも反映までに平均5営業日。営業部から「展示会の告知、まだ出てないんですけど」と言われるのが、毎月の憂うつだったそうです。
そこで、3か月分の依頼を書き出してみました。全27件の内訳は——
- テキストの修正(価格・日付・担当者名など):14件
- お知らせ・実績の追加:7件
- 写真の差し替え:3件
- フォームの項目追加:1件
- スマホで崩れた箇所の修正:1件
- プラグインの更新:1件
上の3つで24件。9割近くが、CMSの管理画面から触れる範囲でした。
そこで線を引き直しました。テキスト・お知らせ・写真の3種類は自社でやる。フォームとスマホ表示は外注する。プラグイン更新は、バックアップを制作会社に取ってもらったうえで自分が実行する一緒にやる(WordPressの安全な更新手順、バックアップと復元の基本)。
制作会社には、こう伝えたそうです。「保守を減らしたいのではなく、急ぎの差し替えを自分たちでできるようにしたい。そのぶん、直せない部分をしっかり見てほしい」。編集権限の付与と、1時間の操作レクチャーをお願いし、費用は3万円。保守契約はそのまま継続しました。
半年後の状態です。
- 超過費用:月2〜3万円 → ほぼ0円
- 反映までの日数:平均5営業日 → その日のうち
- 自分の作業時間:月におよそ3時間増(時給換算3,120円で約9,400円)
- 制作会社への依頼:月8件 → 月1件(そのぶん相談の質は上がった)
数字だけ見れば、支出は減っています。ただ、本人が「いちばん変わった」と言ったのは、そこではありませんでした。「営業に、待ってくださいと言わなくてよくなった」こと。社内での立ち位置が、依頼を右から左へ流す人から、その場で直せる人に変わったのだそうです。
一方で、失敗もありました。最初の月に、お知らせの本文をコピーして貼ったとき、書式が崩れて一覧の見た目が乱れたそうです。制作会社に連絡して10分で直りました。戻せる範囲のミスだった、ということです。だからこそ、この作業は自社でやると決めてよかった、と話していました。
影響
線を引き直すと、いくつか変わることがあります。良いことばかりではないので、正直に並べます。
良くなりやすいこと
- 速くなる。小さな修正がその日のうちに終わります。速さは、サイトの鮮度に直結します。
- お金の使い方が変わる。細かい修正費に消えていた予算が、改善のための企画に回せるようになります。
- 相談の質が上がる。細かい依頼が減ると、制作会社との打ち合わせで「どう良くするか」を話す時間が増えます。
- 社内での説明力がつく。自分で触っていると、「なぜこれは時間がかかるのか」を自分の言葉で説明できるようになります。
気をつけたいこと
- 抱え込みが起きやすい。「自社でやる」と決めた作業は、そのまま自分ひとりの仕事になりがちです。手順書と、できれば代わりに動ける人をひとり作っておきたいところです(一人WEB担当が抱え込まないための優先順位づけ)。
- 時間が静かに増える。月3時間なら吸収できても、月15時間は別の仕事を圧迫します。増えた時間は必ず記録して、上司に見せられるようにしておきましょう。
- 技術的な負債に気づきにくくなる。日々の更新が自社で回ると、制作会社と話す機会が減ります。年1回は、サイト全体の状態を見てもらう場を残しておくと安心です。
そして、これはお伝えしておきたいことですが、内製化しないという判断も、まったく正しい選択です。人員が足りない、繁忙期が読めない、他業務の責任が重い。そういう状況で無理に抱えるより、任せて自分は企画と社内調整に集中するほうが、会社にとって価値が大きいことは普通にあります。「自分でやれないこと」は、能力の問題ではありません。 配分の問題です。
明日やること
今日は、1番だけで十分です。
- 直近3か月の更新依頼を、思い出せるだけ紙に書き出す(20分)。メールの送信済みフォルダを遡るのがいちばん早いです。件数を数えるだけでも、景色が変わります。
- 書き出した依頼に、「自社でやる/一緒にやる/外注する」の3つで印をつける(10分)。迷ったものは全部「一緒にやる」で構いません。
- 自社でやると印をつけた作業のうち、いちばん件数が多い1種類を選ぶ。まずはそれだけ、自分で触れるようになることを目標にします。全部を一度に引き取らないでください。
- 制作会社に、その1種類の操作を教えてもらえないか聞いてみる(メール1通)。「保守を減らしたい」ではなく「急ぎのときに自分で直せるようにしたい」と伝えると、話が進みやすいです。
- 自分の時給を計算しておく(5分)。年収 × 1.3 ÷ 年間労働時間。この数字ひとつで、社内の会話が「なんとなく」から「いくら」に変わります。
チェックリスト
最低ラインは、この3つです。ここまでできていれば、今日は十分です。
- 直近3か月の更新依頼を書き出して、件数を数えた
- 1件ずつ「自社でやる/一緒にやる/外注する」に振り分けた
- 最初に自社へ引き取る作業を、1種類だけ決めた
残りは「余裕があれば」の任意項目です。当てはまらなければ、空欄のままで問題ありません。
- 頻度・戻しやすさ・専門性・自社情報の4つの軸で見た
- 自分の時給(年収×1.3÷年間労働時間)を計算した
- 自社でやる場合の年間時間と、外注した場合の年間費用を並べた
- 保守契約の範囲と、引きたい線が食い違っていないか確認した
- 「誰が・何を・どこまで」の役割分担表を1枚作った
- 役割分担表を制作会社と社内の両方に共有した
- 自社でやると決めた作業の手順書を作った(スクリーンショット付き)
- 自分が休んだ日に代わりに動ける人を、社内にひとり決めた
- 増えた作業時間を記録する場所を決めた
- 半年後に線を引き直す日をカレンダーに置いた

内製化という言葉には、どこか「できる担当者になる」という響きがあります。だから、外注のままにしていると、自分が遅れているように感じてしまう日があるかもしれません。
でも、実際にこの線を引く作業をしてみると分かるのは、これはスキルの試験ではなく、配分の設計だということです。速さが要るものは手元に置く。戻せないものは専門家に預ける。どちらでもいいものは、当面ふたりで持つ。それだけの話です。
そして、線はいつでも引き直せます。今年は外注に戻してもいい。来年また引き取ってもいい。動かせるものを、動かせないものだと思い込まなくて大丈夫です。
3か月分の依頼を数えてみようと思った時点で、もう感覚ではなく事実で判断しようとしています。それは、社内で誰も見ていないところで、いちばん大事な仕事をしているということです。
保守契約の範囲やCMSの権限設定、費用の考え方は会社ごと・契約ごとに異なります。実際に線を引く前に、契約書と制作会社への確認をおすすめします。金額の例はあくまで計算の一例です。
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社内に数字で説明したいときは、WEB施策の費用対効果の伝え方と来年のWEB予算の立て方が近いテーマです。任せる側の準備としては、保守契約の確認ポイントと制作費・見積書の見方、依頼の伝え方は依頼書・要件メモの残し方と修正依頼の書き方をどうぞ。自社で引き取ったあとの体制づくりは、サイト運用マニュアルの作り方と引き継ぎ資料の整え方へ。抱え込みそうなときは一人WEB担当の優先順位づけも読んでみてください。「うちの場合、どこで線を引けば?」と迷ったら、お問い合わせからいつでも声をかけてくださいね。